幼い頃、私は空を見上げては「あの雲は何に見える?」と無邪気に言い合った。
好きなものを「好き!」と叫ぶことに躊躇いはなかった。
嫌いなものには顔をしかめ、興味があるものには全力で駆け寄り、悲しいときには大声で泣いた。
そんな素直な時間が、いつの間にか遠い記憶になっていることに気づいた。

失われていく素直さ
大人になるということは、ある意味で「素直さを失う過程」なのかもしれない。
仕事場では本当の気持ちを押し殺して微笑み、友人との会話では本音を言わずに相槌を打ち、SNSでは実際の感情とはかけ離れた「いいね」をつける。
そんな小さな妥協の積み重ねが、いつしか私たちの心に鍵をかけてしまったように思える。
「これが好き」と言うことすら、なぜこんなにも難しくなってしまったのだろう。
誰かに笑われるかもしれない。
センスがないと思われるかもしれない。
時代遅れだと判断されるかもしれない。
そんな不安が胸に渦巻き、素直な気持ちは奥底へと沈んでいく。
私たちは「正しい選択」をするために、自分の直感よりも世間の評価を優先するようになった。
人気のある映画を観て、流行の服を着て、みんなが行くカフェに足を運ぶ。それが「間違いのない選択」だと思い込んでるんだ。
モヤモヤの声を聞き逃す
朝、目覚めたときの微かな違和感。
仕事を終えて帰る電車の中の説明できない空虚さ。
友人との会話の後に残る何かが足りない感覚。
こうしたモヤモヤは、実は大切なメッセージを運んでくる使者なのかもしれない。
「ここではないどこか」を求める心の声。
「これではない何か」を渇望する魂の叫び。
けれど私たちは忙しさを言い訳に、そのモヤモヤに耳を傾けることを忘れてしまった。
違和感は「気のせい」として片付けられ、心の奥底の声は日常の喧騒に飲み込まれていく。
大人になればなるほど、このモヤモヤの正体を探る時間も勇気も失われていく。むしろ意識しないことが「成熟」だと錯覚し、心の声に鈍感になることを「大人になる」と表現してしまう。
好きを言う勇気
「好き」という感情は、実はとても脆く、同時に強い力を持っている。
ねぇ、あなたは最近、心から「好き!」と叫んだ日ってある?
映画を観て心が震えたとき、本を読んで魂が揺さぶられたとき、音楽を聴いて鳥肌が立ったとき——そんな感情をそのまま言葉にできてたかな。
「好き」と言うことは、自分の内側を晒すことでもある。
嘲笑や批判を恐れて、私たちは「まあまあ良かった」「悪くはなかった」という中立的な言葉で本当の感情を薄め、守ろうとする。
けれど「好き」という言葉には不思議な力がある。
心からの「好き」を口にした瞬間、世界は少し色鮮やかになる。
他人との繋がりが生まれて、自分自身とも繋がることができる。
選ばない自由を選ぶ
私たちは「自由」を謳歌する時代に生きていると言われる。
無限の選択肢の中から、自分だけの人生を設計できる時代。
だけど皮肉なことに、多くの人が本当の自分の望みではなく、「選ばれるもの」を選んでいる。
「みんなが良いと言っているから」「この人と付き合えば周りから羨ましがられるから」「このキャリアなら安定しているから」——そんな理由で選んだ人生の先に、本当の満足はあるのかな。
子供の頃、私たちは大人の不自由さを不思議に思った。
「なんであの人はやりたくないことをしているんだろう」「どうして本当の気持ちを言わないんだろう」って。
そして気づけば、私たち自身がかつて不思議に思った、その不自由な大人になっている。
素直さを取り戻す旅
素直になることは、単に思ったことをすべて口にするということではないと思う。
それは自分の内側の声に耳を傾け、真の欲求と向き合い、それに正直に生きる勇気を持つということ。
…難しい。
長年かけて築き上げた防壁を壊して、自分自身の奥深くに潜む本当の気持ちと対話する必要があって。
時には傷ついて、時には混乱を引き起こすかもしれない。
だけど、その過程を経ることで、私たちは少しずつ自分自身を取り戻していく。
モヤモヤの正体が見え始め、本当に好きなものが何かを思い出し、心から望む選択ができるようになっていく。
素直になれば人生は好転するのかな
素直になれば、すべての問題が魔法のように解決するわけではない。
むしろ最初は混乱や葛藤が増すかもしれない。長年抑え込んでいた感情や欲求が一気に溢れ出し、それまでの人間関係やライフスタイルに波紋を投げかけることもあると思う。
けれど、その先にある景色は確実に違ったものになると私は信じてる。
自分の本心に従って生きることで得られる充実感は、「正しい選択」を追い求めて生きることの疲労感とは比べものにならない。
素直になるということは、必ずしも楽な道ではない。
でもそれは確かに「自分の道」。
他人が敷いたレールではなくて、自分自身の足跡を残していく旅が始まる。
小さな素直さから始めてみる
全てを一度に変えることはできない。
まずは小さな「素直」から始めてみようと思う。
今日の夕食で、本当に食べたいものを選んでみる。好きな曲に出会ったら、誰の目も気にせず体を揺らしてみる。心を動かされた本があれば、その感動を言葉にしてみる。モヤモヤを感じたら、それを無視せずに、なぜそう感じるのかを自分に問いかけてみる。
そうした小さな「素直」の積み重ねが、いつか大きな変化をもたらすかもしれない。自分の心に正直に生きる勇気が、新たな扉を開くきっかけになるかもしれない。
素直な世界への一歩
子供の頃の私たちは、素直だったよね。
感情をありのままに表現し、好きなものを全力で好きだと言い、嫌いなものからは遠ざかる自由を持っていた。
どこかでその素直さを失ってしまった私たちも、再びその感覚を取り戻すことはできる。
心の奥底に耳を澄まし、小さな本音の声を拾い上げることから始めよう。
素直になるということは、自分自身との約束を守るということ。
自分を偽らず、自分の感情を大切にするということ。それは決して簡単な道のりではないけど、確かに歩む価値のある道なんだ。
あなたの心は今、何を望んでいるんだろう。その小さな声に、今日から耳を傾けてみない?一緒にね。
素直になる勇気が、新しい世界への扉を開くかもしれない。
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