幼馴染が結婚と、心のざわめき

先日、幼馴染が結婚した。

その知らせを聞いたとき、胸がいっぱいになった。

長い間そばにいた人が、人生の新しい扉を開ける。それはとても喜ばしいことだったし、心から祝福したいと思った。

でも、同時に、自分でも説明のつかない感情が胸の奥からじんわりと広がっていった。

これは未練なのか?

それともただの感傷なのか?

心がざわつく理由を探しながら、私は過去の記憶をたどった。

小さな頃から、ずっと一緒だった

彼との出会いは、小学校の頃にさかのぼる。家が近かったこともあり、家族ぐるみの付き合いがあった。気づけばいつも一緒にいて、習い事も同じだった。

習い事終わりに遊んだり、時には厳しい指導に共に耐えながら。

だけど、彼のほうがいつも一歩先を行っていた。

ピアノの発表会では、私よりも難しい曲を軽々と弾いていたし、勉強だって、私が一生懸命に努力してようやく解ける問題を、彼はあっさりと解いてしまう。

「すごいなぁ」と思うことばかりだった。

でも、彼は決してそれを自慢することもなく、私がうまくできないときは隣でそっと教えてくれた。

「ここはこうしたらいいよ」

そう言って、当たり前のように手を差し伸べてくれるんだ。いつだって、温かく包み込んでくれるような。兄のような存在だ。

子どもながらに、私は彼のことを少し特別な目で見ていたのかもしれない。

人生でつらいとき、そばにいてくれた唯一の人

彼は、ただの幼馴染ではなく、私の人生において特別な存在だった。

思春期を迎えて、友達関係や勉強、家族のことで悩むことが増えたときも、彼は変わらずそこにいた。

会わない期間も、私を知ってくれてる人がこの世にいてくれてる。

そう思うと自然と力が湧いてきた。

大人になってからも、それは変わらなかった。仕事で落ち込んだときも、恋愛でうまくいかずに傷ついたときも、彼は何も聞かず変わらない笑顔でいつものように柔らかく他愛もない話をするんだ。

ただ「大丈夫」と言って、いつものように笑ってくれた。

そんな人、他にいない。

私のすべてを受け止めてくれる、唯一の人だった。

でも、こんなこと、本人には絶対に言えない。

彼から「結婚することになった」と聞いたのは、ご飯会中突然だった。

最初に思ったのは、「ついにか!」ということ。

昔から彼は人望が厚く、スポーツも勉強も万能でモテるタイプだったから、いつか結婚するのはわかっていた。それでも、実際にその時が訪れると、不思議な気持ちになった。

「ご飯行こうよ」

私は彼と彼の婚約者、そして数人の共通の友人と一緒に食事をした。

彼の隣に座る彼女は、とても素敵な人だった。明るくて、気遣いができて、知的で、何より彼のことを心から大切に思っているのが伝わってきた。彼もまた、そんな彼女を愛おしそうに見つめていた。

なんだろう、この感覚。

楽しいはずなのに、心の奥にぽっかりと穴が開いたような気がした。

…帰りの電車で「もしも」を考えた。

食事会のあと、帰りの電車で彼と二人になった。

「楽しかったね」

「うん、ほんとに」

そんな何気ない会話をしながら、私はふと考えてしまった。

もし、私たちが結婚する未来があったとしたら、どうなっていただろう?

彼の両親は、私にとっても第二の両親のような存在だった。幼い頃からたくさんお世話になって、家族ぐるみの付き合いの中で育ってきた。

そんな家族の中に飛び込んで、一緒に人生を歩む選択をしていたら、今とは違う景色が見えていたのかもしれない。

もちろん、それはもう二度と起こり得ない「もしも」の話。

それでも、想像してしまった自分に、少しだけ切なくなった。

それでも、心からの祝福を

彼は、本当に素敵な人と結婚する。

私が誰よりも彼のことを理解しているからこそ、それがどれだけ幸せなことかわかる。だから、どうにかなりたいなんて、1ミリも思わない。

だけど、胸の奥にざわつきを感じるのはなぜだろう。

「これが、幼馴染が結婚するときの気持ちなのかもしれないね」

ふとそう思った。

流石に20年以上の付き合いの中で、幼い頃に彼のことを好きだった時期もあった。でも、それはとうの昔に過ぎ去って、今はただの家族のような大切な人という位置に落ち着いていた。

そのはずなのに、どうしてこんなにも感傷的になってしまうのだろう。

答えはわからない。でも、ひとつだけ確かなことがある。

私は今も、彼のことが大好きだ。

それは恋愛感情とか、そういうものではなくて、人として、心から尊敬していて、大切に思っている。

だからこそ、彼の幸せを心から願う。

「本当におめでとう」

そう伝えたとき、彼はいつものように笑って、「ありがとう」と言った。

その笑顔を見て、少しだけ心が軽くなった。

たぶん、このざわめきは、時間とともに消えていくのだろう。

彼が新しい人生を歩み始めるように、私もまた、自分の道を歩いていく。

だから、もう一度、心を込めて伝えたい。

「本当におめでとう。どうか、ずっと幸せでいてね。」

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